306 将来計画及び運営方針
5-2 分子スケールナノサイエンスセンター
自然科学研究機構分子科学研究所分子スケールナノサイエンスセンター規則第2条に,センターの設置目的として
「センターは,原子・分子レベルでの物質の構造及び機能の解明と制御,新しい機能を備えたナノ構造体の開発及びそ の電子物性の解明を行い,これらが示す物理的・化学的性質を体系化した新しい科学を展開するとともに,ナノサイ エンス研究に必要かつ共通性のある物性機器,研究設備の集中管理を行い,これらを研究所内外の研究者の利用に供 し緊密な連携協力の下で共同研究等を推進することを目的とする」との記載がある。即ち,センターは「ナノサイエ ンス研究を行う」機能と,「ナノサイエンス研究に必要かつ共通性のある設備等の集中管理・共同研究の推進」という 機能が要求されていることになる。
以下の方法でこの二つの機能を果たすことができると考えている。
5-3-1 ナノサイエンス研究の推進について
・研究グループ毎の独自テーマの遂行とセンター内外での共同研究の推進
ナノサイエンスという言葉は非常に広い意味を含んでおり,必ずしもその概念範囲が確立したものではない。セン ターの研究教育職員は,様々な研究のバックグラウンドを持っており,そうしたバックグラウンドを元にして,自由 な発想を堅持しながら,ナノサイエンス上の共通課題に取り組む共同研究を行うことで,分子研独自のナノサイエン スの創出が可能になると考えている。共通課題を探索する仕組みとして,今年度からセンターにおいては定期的に研 究交流会を行い,各研究グループからの最新の研究成果の紹介とフリーディスカッションを行うことにした。この中 で出た共同研究の萌芽を育てる仕組みを作ることが必要となるであろう。
センターを構成する三研究部門は,それぞれ下記のように独自テーマを遂行する。
[分子金属素子・分子エレクトロニクス研究部門]
分子スケール電子素子とは,一つの機能単位が分子レベル(~1 nm 程度)の電子素子の総称である。その実現はナノ サイエンスの代表的な課題であり,集合体の性質によらない一つの分子の電気特性を明らかにする,分子や無機ナノ 構造体の高次の自己組織化を制御する,バルク電極と有機・無機ナノ構造体の界面の状態を明らかにするなど基礎科 学的に重要な課題を含むと同時に,将来の超微細電子素子の基礎を築くという応用面での重要性も併せ持っている。こ れを実現するためには,合成化学,物性物理,ナノ電子計測,表面科学,計算機科学,数学など幅広い分野の研究者 の協力が必要であり,これまでの科学の分野を横断したフロンティア分野であることは明らかである。
本研究部門においては,このような視点の元で次のような具体的課題を,3つの研究グループで行い,分子スケー ル電子素子という新分野を開拓する。
(1)高性能の電気特性を示す新規有機分子の開発
集合体レベルでキャリアー移動度の高い分子の設計・合成,単分子レベルで高電導性を持つ分子の設計・合成,単 分子レベルで光応答性,電界発光能を持つ分子の設計・合成と,それら分子の素子化と物性の研究を行う。また,新 規の無機ナノ構造体の開発および,無機・有機ナノ構造体の高次複合系の研究も行う。
(2)有機分子の電子素子化における課題の解決
有機分子と電極界面の解析,制御の研究。新たなナノレベルの電極作成法の開発,有機・無機ナノ構造体の高次自 己組織化の制御などの研究を行う。
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(3)単分子電子計測に必要な分子設計,合成,新規計測手法の開発
単分子計測が容易になる分子の設計,合成,ならびに新規のプローブ顕微鏡の開発などの計測手法の研究を行う。 更にこうした新たな分子系や,新規計測手法を利用した研究所内外の共同研究を進め,新規分野の開拓を行う。
[ナノ触媒・生体分子素子研究部門]
21世紀を迎え,今日の研究支援機器の発達などに伴い,従来は均一触媒と捉えられてきた溶液相における触媒反応 特性のより包括的な理解(分子集合体,コロイド種などを含む)や,不均一触媒(固体触媒,ナノ粒子触媒など)の 分子レベルでの理解が可能となりつつある。また生体系触媒機能に見られる複雑な分子,電子,エネルギーの授受は 理想的化学変換のショーケースと捉えることができる。これら生体分子素子の働きを分子レベルで俯瞰しそのシステ ムをフラスコ反応として取り出す試みは,新世代の触媒システム・化学変換工程の開拓に直結する。これら生体触媒 の機能発現に決定的な役割を果たしているのもまた液相における分子レベルのナノ構造である。
触媒化学の鍵を握るのはナノスケールでの構造的情報であり,もう一つは分子,電子,エネルギーの流れに起因す る分子のインターラクティブな動的挙動や空間的な不均一性である。すなわち今や触媒化学における均一−不均一,分 子性−固体,などの境界は混然と成りつつあり「ナノ」というキーワードの下で本質的な理解が進みつつある。本研 究部門では分子科学者の視点からこれらナノスケールで触媒化学を見つめ,理解し,設計し,その構造−機能の新局 面を開拓する。
今後は,分子レベルでの化学現象の理解・設計・開発を進めつつ,特に従来の単位工程としての化学変換反応に留 まらず,より大きな化学変換システムの開発研究に邁進する。それら化学変換システムを司る触媒などの機能性分子 には複合的機能の集積化が求められることから,従来の小分子レベルでの設計を越え,ナノスケールでの機能分子開 発が必然的に要求される。
また,機能開発と並行して学際的連携によるナノスケールでの分子挙動に基づく新分野の開拓を目指す。特に本部 門で開発する新物質を基盤とすることで,既存物質系の研究では到達しがたい独自の分子科学を創成する。
[ナノ光計測研究部門]
金属ナノ構造物質は,不均一触媒反応においてきわめて重要な役割を果たしており,また,プラズモン共鳴に基づ く光電場強度の増強など分光学的,および,光化学の立場からもきわめて興味深い物質である。本研究部門では,金 属ナノ構造物質の構造,物性,および,反応性にわたる総合的な研究を展開し,サイズ特異性・サイズ依存性の発現 の起源を追求する。
金属ナノ構造物質の調製方法としては,よくコントロールされた金属酸化物表面への真空中での金属蒸着などのド ライな環境の下で行うものと,有機単分子膜に保護されたコロイド状の金属ナノ構造物質を溶液中で調製するウェッ トな方法などを採用する。特に後者の方法では,原子レベルでサイズ制御された金属クラスターを系統的に作りわけ が可能であり,この利点を活かした精巧なモデル構造体の構築を目指す。
調製された金属ナノ構造物質の幾何学的構造は,T E M,S T M,A F M などにより明らかにすると共に,その電子構造 は紫外光電子分光,2光子光電子分光などにより明らかにする。特に,この物質の光非線形効果や光化学において重 要と考えられる電子ダイナミックスをフェムト秒時間分解2光子光電子分光によって解明する。
金属ナノ構造物質表面での反応性を明らかにするためには,まず吸着種の同定とその吸着状態を明らかにする必要 がある。このために,反射赤外吸収分光や和周波発生分光を行う。特に,後者はピコ秒の時間分解能を有するため,金
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属ナノ構造物質表面での反応における中間体の検出に適しており,これらの知見から反応機構の解明,および,反応 の制御法の開拓を行う。また,これらの基礎的な知見に基づいて,金属ナノ構造物質と有機分子からなる触媒系を設 計・合成し,均一系での触媒反応過程を A T R -F T IR などを用いて in-situ に追跡する。
5-3-2 ナノサイエンス研究に必要かつ共通性のある設備等の集中管理
・新規大型機器導入の努力と,既存機器の効率的維持管理
全国の大学における研究環境を見ると,およそ1億円未満の価格帯の中型機器を揃えて全国共同利用に供する必要 性は減ってきたと認識している。ナノ支援により導入された 920MHz 核磁気共鳴装置(NMR )は,主にセンターの職 員により維持管理されているが,その価格や維持管理に必要な資源の大きさから考えて,全国共同利用とするにふさ わしい設備である。この設備を中心として発展可能な共同研究を推進するための,設備,人的体制を整えることが必 要であろう。
これまでに導入されている機器も,共同利用の実績から判断して必要度が高いと思われる機器については,重点的 に更新・改良を行うことにした。利用度が低い装置については,修理が困難になった段階で,廃棄もしくは研究グルー プ等への移管をすることにした。また,主に所内共同利用を意識した新規の小型・中型機器をどのような基準で選定 し,どのような予算で購入し,どのようなシステムでサービス提供するかについては,今後更に議論を深める。
また,NMR 以外の大型機器の導入についても,次のような設備の導入に努力する。
・ナノファブリケーション設備の導入
既に全国の大学には何カ所かにナノファブリケーション設備が導入されているが,分子研の研究環境に存在するこ とで初めて可能になる研究テーマがある。これが,新たなナノサイエンス研究の芽になることは間違いないと考えて いる。
・独自装置の開発とその共同利用の可能性の探索
独自装置の開発は研究そのものであり,その成果を共同利用に供することには抵抗があることが多いが,最先端研 究において本当に重要な装置・設備は市販していない可能性が高い。そうした装置・設備を共通性の高い予算で作成 して,共同利用に供する可能性を検討することも必要であると考えている。
・技術職員の充実,維持管理予算の拡充
高度の設備を最大限に利用するためには,高度の技術的サポートが必要となる。こうした技術支援を行う人材の探 索,養成を行い,その技術力にふさわしい処遇を用意することが今後益々重要になる。また,これらの大型機器はそ の維持経費も大きく,これまでの維持管理予算の範囲ではカバーしきれず,研究経費に食い込みつつある。こうした 事態を改善するための予算処置が必要となる。
他の大学・研究所から見た場合の共同利用研の魅力は,単に大型設備がそこに有る事ではなく,その設備を最大限 に活かして高度の研究を行っている研究者が周辺にいることである。そのためには分子研の独自性を活かした設備の 開発・導入と,既存大型設備の性能を最大限に活かせる人事交流の両面が必要であり,そうした観点で運営を行って いきたい。